かしの 鵜川さんが着物に携わるようになったきっかけは?
鵜川 『カネ照呉服店』の跡継ぎである主人と結婚したのは19歳の時です。それまでは着物とは全く縁がありませんでした。両親は音楽家で、私も小さい頃からピアノを習っていて将来はピアニストに、と思っていたようです。身近にあったのはクラシック音楽でしたし、父は海外に行った時に私のためにドレスを買ってきてくれたり、どちらかというと洋の世界に親しんでいましたから。着物や和の文化に興味を持ったのは、呉服店に嫁いでからです。結婚してすぐに店に立つようになったけれど、右も左もわからないことばかり。お客さんが来られて『帯揚げをください』と言われても、義母にいちいち聞いていたくらいなんです。初めて知ることばかりで、着物には留袖、振袖から紬に至るまで格式があり、季節や行事、場面ごとに合わせて着ることや、反物や小物のことまでいちから覚えました。
かしの 着物の魅力を改めて感じられたのはいつ頃からですか?
鵜川 今まで知らなかった世界ですが、着物のことを学んでいくうちにその奥深さに惹かれていきました。着物には織りや染め、刺繍など日本の文化と伝統、芸術が凝縮されています。呉服店の女将として着物のプロを目指そうと思って、着付けを本格的に習い、もっと着物を広めたいと思うようになりましたね。時代とともに着物を着る機会が減ってきたのが残念だったんです。もっと多くの人に着物の素晴らしさを知ってもらいたい、それには、まず着物を着てもらうことだと考えて、『カネ照きもの着付学院』を設立しました。教える立場になっても、生徒さんから学ぶことは多いですね。単に着物を着るだけでなくて、その人らしさを表現するのはどうしたらいいのか、その時々に合わせたコーディネートを考えながら一緒に成長して行く楽しさがあります。
かしの 着物を通したNPOやボランティア活動もされているとか。
鵜川 阪神・淡路大震災の経験が着物文化を広める活動を後押ししてくれました。震災で『カネ照』が全壊し、周りの人に支えられて、名称を「You&有きもの着付学院」として再び立ち上げ、自分にはやるべきこと、できることがあると勇気をもらったように思います。昨年は3・11の東日本大震災があり、人事ではなくて…アメリカでの着物ショーのお話があったときも、日本のことを着物を通して知ってもらおうという気持ちでやることに決めたんです。現地ではいろんな方が協力してくださって、積極的にボランティアで参加してくださる。その気持ちの大切さ〝絆〟を改めて実感しましたね。
芦屋市生まれ。東灘区の老舗呉服店『カネ照』に嫁ぎ、呉服店の女将として着物のプロを目指す。昭和60年「カネ照きもの着付学院」設立。平成5年、新時代の着物コーディネートを打ち出した「You&有きもの着付学院」設立。翌年、新時代のブライダルを打ち出す「ブライダルグループYou&有」を立ち上げ、ブライダルプロデューサーとしても活躍。平成22年に着物文化の普及をめざすNPO法人「愛loveきもの幸の会」を設立。イタリアやアメリカなど海外での着物ショーや神戸で着物ショー・イベントなどで幅広く活動。
飛松中学、長田高校、神戸大学卒業。リクルートを経て、(株)IMJの代表取締役社長に就任し株式公開。2009年神戸市長選挙に立候補するも惜敗。現在、(株)OKwave取締役、Kiss FM取締役を務めながら神戸リメイクプロジェクト代表として神戸の活性化を推進中。また広島県庁の広報統括責任者、京都府参与として地方自治体の改革も手掛けている。新著は「地域再生7つの視点」(カナリア書房)
かしの 神戸はファッションの街としておしゃれな人も多いのですが、着物に対する興味はどうですか?
鵜川 着物というとみなさん堅苦しく考えるようですが、私はもっと気軽に楽しく洋服感覚で着てほしいと思っています。例えば、浴衣をミニにアレンジしたり、色合せを楽しんだり。でも、着物を切って洋服風に仕立て直すというのではなく、着物の特徴である、一枚の布から立体的な形にするという基本は崩さず、新しい着方やコーディネートを提案しています。伝統やしきたりにとらわれない感覚が、若い人やファッションに敏感な神戸の女性にも受け入れられるのかもしれません。神戸は自由な感覚のおしゃれを楽しむという気風があって、若い人は先入観なくすんなり受け入れてくれますね。
かしの 着物の伝統に神戸のファッション感覚がプラスされて新しいものを生み出していく期待感があります
鵜川 ええ。着物ショーでのテーマのひとつに花嫁衣裳の新しいコーディネートがあって、打掛や白無垢にベールやブーケをアレンジしたり、教会での結婚式に和装花嫁衣裳での挙式を提案しています。伝統を大切にしながら新しい美しさを表現することが、神戸のファッションセンスに合っていると思います。私は着物を音楽に例えるんですが、フレーズで遊んだり、その人らしさを表現して、感性を大切にしたい。着物を通して大好きな神戸の街や回りの人が夢に向かって邁進するのを応援したいと思っています。
「神戸だから出来たと思う」と鵜川さんはおっしゃいました。鵜川さんの着物コーディネートは、堅苦しいイメージの着物を楽しみ、遊び、着崩すという新しい世界感を創りだしています。もちろん基礎をしっかり抑えた上でのことですが、それでも「京都にいたら、とてもそんなことをさせてもらえなかったと思う」とおっしゃいます。本家本元、歴史と伝統を支えなければならない場所では、進化と変容の度合いが限られるのは当然です。遊び心の幅、和装と洋装の文化の融合など、鵜川さんのスタイルは神戸という土地がもたらした産物なのだと私は思います。武道の世界に「守・破・離」という教えがあります。「守」とは、師や各流派の教えを忠実に守り、それからはずれることのないように精進して身につけよ、という意味。「破」とは、今まで学んで身につけた教えから一歩進めて他流の教え、技を取り入れることを心がけ、師から教えられたものにこだわらず、さらに心と技を発展させよ、という意味。「離」とは、破からさらに修行して、守にとらわれず破も意識せず、新しい世界を拓き、独自のものを生みだせ、という意味です。この「破」と「離」を産む風土も神戸の強みなのではないでしょうか。
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