スペシャル粋トーク

2015年 冬号

神戸の色を感じて、情報発信していきたい

坂野 神戸をテーマにした文具を作ろうと思われたのはいつ頃からですか?

竹内 若い頃から万年筆や手帳などが好きで、文具に関わる仕事がしたいとナガサワ文具センターに入社し、2年目から企画の仕事を任されて「いつか、神戸発の文房具を出そう」という夢がありました。育った神戸はずっと大好きな街でしたから。当時は文具メーカーの開発部門への企画提案や先行販売という形で、オリジナル文具を作るまでには至らなかったんですが『情報発信を神戸から』という意気込みは持っていましたね。神戸の街は新しいものを受け入れる力があって、反応も早い。ナガサワで扱う文具のバリエーションも広がって「神戸発の文具」への期待が膨らんできたんです。そこへ、起きたのが阪神・淡路大震災です。

坂野 震災後に三宮センター街で一番最初に店をオープンされたそうですね。

竹内 一時は仕事も辞めなければならないかもしれないと考えたこともありましたが、お客様から「印鑑やペン、書類、必要なものがあるから何でもいいから店を開けてくれ」と。店を開けてとにかく必要とされていることをやろうと精一杯でしたね。震災前からの企画や夢も脇に置いて、その後10年間は会社の片付けと整理で、気付いたら50歳を迎える年になっていたんです。ふと振り返って若い頃からやりたかったことをもう一度考えてみよう、神戸のためにも何かできるんじゃないかと思い始めました。

ナガサワ文具センター商品開発室室長。昭和53年株式会社ナガサワ文具センター入社、2年目から企画に携わり、ナガサワオリジナル文具などを企画。阪神淡路大震災をきっかけに元気になった神戸をインクを通じて表現したいと2007年「神戸インク物語」を企画、開発。趣味はカメラ、旅行。休日は神戸や各地を尋ねて撮影し、企画を練る。

坂野 仕事と夢を再スタートしようと思われた原動力となったものは何でしょう?

竹内 文具が好きで神戸が好きだという、その一心でしょうね。改めて神戸を見てみようと思い、休みの日にカメラを持って街を巡ってみたんです。若い頃から写真を撮るのが趣味で、好きな風景や撮影ポイントは頭に入っていましたから。震災前とは変わってしまった場所もありますが、神戸らしい雰囲気が残っている場所も少なくありません。ポートタワーやトアロード、神戸港巡りの遊覧船から見た深い海の青色や、いつも心を癒してくれる六甲山の変わらぬ緑、街にはいろんな色があるなあ、と。私は物心ついたときから、見たものを色で感じるところがあって、街を「色」で表現できるんじゃないかと思ったんですね。それと、もう一つはお客様の力です。震災後は店でお客様に励まされることも多かった。お礼の手紙やメッセージを伝えるのに愛用の万年筆を使う、文字で気持ちを伝えるのにインクの色にもこだわりたい。そうして生まれたのが「神戸インク物語」です。

坂野 「神戸インク物語」は素晴らしいネーミングですね。神戸と文具への思いがストレートに伝わってきます。

竹内 ありがとうざいます。最初に作った「六甲グリーン」は、震災後、会社からいつも眺めていた六甲山の風景を深いグリーンで表現したものです。「こんなインクを待っていたんです!」とおっしゃるお客様の声にずいぶん励まされました。その後、「波止場ブルー」、「旧居留地セピア」と続いて、毎年、シリーズで数色を作るようになりした。それぞれに場所のイメージと物語を添えて、独自の色を出しています。発想の原点とも言える「垂水アプリコット」は震災後、垂水の自宅から会社まで自転車で通っていた時、帰宅途中に見える夕陽の美しさに癒され、いつかこの色を表現したい、と作ったものです。2014年に発売7年で50色の「神戸インク物語」になりました。神戸の皆さんと一緒に作った色だと思っています。

坂野 雅(ばんのまさし)/東灘区・昭和51年生まれ
坂野 雅(ばんのまさし)/東灘区・昭和51年生まれ

株式会社ARIGATO-CHAN代表取締役社長。甲南大学経済学部卒業後、広告会社の博報堂を経て、株式会社ARIGATO-CHAN設立。『NUNOBIKI NO MIZU』を代表作として、観光を切り口に、ハートフルな企画で、地域活性化に繋がる各種プロジェクトのディレクションや企画立案等、幅広く携わる。また『街そうじ』をプロジェクトにした全国で活動する『Green bird神戸チーム』のリーダーも務める。
http://arigato-chan.com/

坂野 今後はどのように神戸の魅力や文化を発信していかれますか?

竹内 神戸にはブランド力があります。海外からの方や国内でも「神戸はいいところですね」と言われることが多い。神戸の街や人はいろんなものをすんなり受け入れる体質がありますが、選択眼は厳しい。ある意味、保守的でトラディショナル、その分、落ち着きや上品さもあると思います。神戸インク物語は海外の方のファンも多くて、わざわざ神戸まで足を運んでくださる方もおられます。街の色のほかに、限定品として神戸で開催される絵画展にちなんだ「ゴッホコバルト」や「モネバイオレット」も好評です。ほかの街のインクを、という依頼もあるのですが、あくまで自然体で、神戸をテーマに続けて行きたいと思っています。色は無限大、普通の生活の中で新しい色が見えてきたら、またひとつ神戸の物語が始まるかもしれませんね。

ばんのまさし今回のツボ

『楽しみながら仕事をしないと仕事にならない。楽しい事が大切』
竹内さんがキラキラしながら楽しそうに話される。神戸の街をインクの色で表現した"神戸インク物語"のお話を聞いて、幸せになりました。

『震災がきっかけになり、市民の皆様と一緒に作った神戸インク物語。
震災20年に向けて、50色を作ろうと思った願い。間に合った』


神戸に対しての50話の物語。それは、竹内さんの神戸に対して思う気持ちの数であり、神戸への愛を強く感じました。本当に素晴らしい限りですね。

日々の暮らしを通じて感じる神戸の季節・時間・天気・感情を表現している。それぞれの色に添えた物語の切口も本当に素晴らしいです。

『売場に立ち、直接、お客様に物語を語っていて、30色をすぎる頃までは大変だった』

竹内さんのお話を聞いていて、強い想いを持ち続ける事。想いに対しての行動をし続ける事。続けていく事で、少しづつではあるが、必ず想いの通りに物語が進んでいくと言う自信を感じました。

『神戸インク物語は、お客様の物語になり、そして消える事が無い。』
『もっともっと神戸の魅力を、インクを通して神戸の色で伝えていきたい』


こんなに素晴らしい先輩がいる神戸。
神戸の魅力は、神戸の人の暮らしや生き方につきると感じました。

神戸と文具が大好きな竹内さんのロマンチックな神戸インク物語を通じて、神戸の魅力の再発見につながり、改めて、海と山に恵まれた素晴らしい神戸の大好き指数が高まりました。

神戸発の最幸に素敵な物語が、これから更にどの様に世界に拡がっていくか。
物語の続きが、心から楽しみです。

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